幕末オオカミ 第二部 京都血風編
・彼女の正体
辺りが暗くなると、通りはますますにぎやかになってきた。
格子の向こうに、他の店からこぼれる蝋燭や提灯の灯りがぼんやりと丸く見えた。
「紅葉姉さん!」
お小夜が部屋に入ってきたのは、夕餉の少し前のことだった。
「明里姉さんにお客さんえ。
なんか胡散臭くて……今から少し出かけようと、番頭はんと交渉してるみたいや」
「今から出かける?」
島原の遊女は吉原のそれとは違い、店の許可があれば、大門を出て外出することも可能だ。
だけどそれは、昼間一緒に芝居を見にいくだとか、そういう場合が多い。
日が沈んでから、いったいどこに行こうと言うの?
「ありがとう、お小夜。総司、あたし行ってくる」
「俺も行く」
そう言って総司が立ち上がると、格子がかたかたと音を立てた。
「風?」
「いや、違う」
総司が格子の内側の障子を開けると、2月(現暦3月)のまだ冷たい風とともに、一枚の紙がひらりと舞って、畳の上に落ちた。