幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「……そうか。今明里が誰か他の客と出ていったね。
それを尾行しなきゃいけないわけか」
「え……」
「キミの本当の任務は、不逞浪士の調査じゃない。
明里を……どうにかするつもりなんだろう?
おそらく、土方くんの差し金で」
山南先生のメガネの奥の目が、きらりと光った。
彼はとっくに見抜いている。
あたしが明里さんを見張っていたことも。
副長が、明里さんを山南先生から引き離そうとしていることも。
そう……直感した。
「山南さん、明里は討幕派と繋がっているかもしれません。
それは既にご承知でしょう?」
総司が言うと、山南先生は静かにうなずく。
「そうだろうね。
しかし、不愉快だな。
きみたちは私の周りを、無断で嗅ぎまわっていたんだね。
そんなに私は信用がないのかい」
すっと細められた目で射抜かれると、身が縮まる思いがした。
彼の言う通りだ。そう思われても仕方ない。
あたしは、同志である山南先生の、おそらく誰にも見られたくなかったのであろう場面をのぞき見していた。
あたしだって、誰かに総司と二人きりのところを見張られていたら嫌だもの……。