幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「大好きですっ、山南先生!」
後ろから抱きつくと、くすくす笑いながら彼は答える。
「はいはい、離れておくれ。文が書けないから」
「あたし、手伝いますっ!」
山南先生が書状の内容を考えているあいだ、あたしは超高速で墨を磨る。
「るんるんるん♪」
「俺も行きたいけど……ムリですよね」
シャコシャコ墨を磨るあたしの横で、平助くんが不満をあらわにして、ため息をついた。
「すまん、平助。
屯所の守りが私と病人・怪我人だけじゃ頼りないからね」
「ちぇっ……みんな、楓に甘いんだよなあ」
「お前だってそうだろう」
たしかに、と平助くんはあきらめたようにうなずいた。
そうだよね……二人だって、本当は仲間と一緒に戦いたいんだよね。
あたしばっかりわがまま言って、今更だけど恥ずかしい……。
「そんな顔しないで。
俺たちのぶんまで、しっかり働いてきてよ」
平助くんはあたしの肩をたたき、笑った。
そうしてあたしは二人の好意を受け取り、一人九条河原に向かうことになった。