幕末オオカミ 第二部 京都血風編
この子は、身分が低いと自分で言っていたけど……それでも、純血の陽炎を好きになったんだ。
普通なら諦めてしまうであろう辛い恋に、突き進んできたんだ……。
陽炎もきっと、槐が一番信用できると思って、文を送ったんだろう。
恋仲ではなかったけれど、きっと二人の間にはあたしが知らない絆があったに違いない。
「あんたが上様の側室になるならって、陽炎様は身を引いていたの。
それなのに、一族を裏切って脱走なんかして……。
陽炎様がどんな思いであんたを探していたと思ってるのよ!」
ふさがっていたと思っていた胸の傷が、次々に暴かれていく。
総司の命が危なくなり、池田屋事変があり……。
いつの間にか、陽炎のことは記憶の片隅に追いやられていた。
「あんた、その男とできてるんだろう。
自分だけ何もかも忘れて幸せになれると思うなよ!!」
槐は総司を空いていた方の手で指さして叫ぶ。
胸が張り裂けんばかりに、息を吸い、力の限りにあたしを罵倒する。
あたしは……陽炎だけじゃなく、陽炎に恋していたこの子も、不幸にしてしまったんだ……。