幕末オオカミ 第二部 京都血風編
槐の言う通りだ。
あたしだけすべて忘れて、幸せになるなんて……。
「もういいだろう、槐。
復讐なんて、やめるんだ。
そんなことをしたって、陽炎という男は戻ってこない」
陽炎とは直接会ったことのない山南先生が、落ち着いた声音で槐に言い聞かせる。
「そんなことはわかってるよ!
でも、こいつらに復讐しなきゃ、私は前に進めないの!」
「そんなことない」
山南先生はそう断言すると、ぐいと槐の腕を引き寄せ……その手を離したかと思うと、動く左腕一本で、槐を強く抱きしめた。
「わかっていたよ。
きみが、ずっと寂しそうな、悲しい目をしていたこと」
優しい声が、闇夜に響く。
「それが他の男を思っていたとしてもかまわない。
自分が新撰組の情報源として利用されていたとしても。
私は……孤独なきみの力になりたい」
「な……何を言って……」
抵抗しようと思えばできるはずなのに、山南先生の心からの声が、槐の動きを制限しているようだった。