幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「だってきみは、私の寂しさを忘れさせてくれたんだ」
「はあ?あんなの全部お芝居よ。
くノ一は誰だって、あれぐらいできるの」
「芝居はうまくなかったよ、きみは。
最初から、遊女にしては踊りがたどたどしくて、笑いをこらえるのに必死だった。
不自然な京言葉も、お世辞にも上手とは言えない句作も、すべてが可愛かった」
ってことは……山南先生はずっと、槐が本当の遊女じゃないって気づいていたの?
彼の腕の間から見える槐の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。
「私だって、きみが何者か探るために近づいた。
だけど、その必死さや寂しさに気づいてからは……どうしてかな。
本気できみのそばにいたいと思うようになっていたんだ」
あたしと総司は、山南先生の穏やかな顔色をじっと見つめていた。
小次郎も、相変わらず静かに事態を見守っている。
けれど、槐が何か言い返そうと顔をあげた、そのとき……。
じゃり、と足元の小石を踏む音がした。
そちらを振り返ると、あたしたちの背後に……平助くんと斉藤先生を連れた土方副長が、槐の方をにらんで立っていた。