幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「槐!」
山南先生の声がする。
ハッとそちらを見ると、彼は左腕で刀を持ち、敵を斬りながら一歩一歩槐に近づいていた。
「山南先生!」
いてもたってもいられず、彼のそばへと駆け寄る。
動かない右腕の方に立ち、そちらから襲ってこようとした半魚人を、苦無をかまえて威嚇した。
「ありがとう、楓くん」
山南先生はそう言うと、左側から襲ってきた敵に突きを食らわせた。
しかし、ただの刀では鱗を突き破ることができない。
倒れた敵は、すぐに起き上がってきた。
「槐、もうやめて!
山南先生は、本気であんたのことが好きなんだよ?」
槐に向かって叫ぶと、彼女は鼻を鳴らし、こちらを冷たく見つめた。
「それがなんなのよ。
何度か抱いたくらいで、勘違いしないでほしいんだけど」
「槐……!」
「私を理解したふりをしないで。
幕府と新撰組への復讐だけが、私の生きる目的なの。
それを奪わないで……」
ハッとした。
槐が、ほんの一瞬、泣きそうな顔をしたように見えたから。