幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「……あいつか!」
すぐ横にいた総司が指さしたのは、小次郎だった。
彼は両手の指を不思議な形に組み、口元で何かぶつぶつと呟いているみたい。
「逆真言(ぎゃくしんごん)よ」
山南先生の様子を真剣に見ていた槐が、小さくつぶやいた。
「逆真言だと……?」
それを聞いた斉藤先生が、自ら真言を唱えるのをやめてしまった。
呪符が地面にはらはらと落ち、解放された山南先生は、倒れた格好のまま荒い息をつく。
「どういうことだ、斉藤」
副長が問うと、斉藤先生は厳しい顔で、早口に説明した。
「俺の使っている真言を、誰かが逆から唱える。すると、俺の真言とぶつかり、無力化されてしまうのです」
「なんだって?」
「そんな!」
どうしよう。
平助くんの攻撃は、一度は山南先生を遠ざけることができたけど……他のもののけと同じで、全身が固い鱗に覆われ
ているためか、気絶させるところまでは難しそう。
「新撰組……ここであんたたちには、死んでもらうわ」
固い表情で、槐は言った。
山南先生が再び動き出せば、自分も攻撃されるかもしれないからだろうか。
ただ、他のもののけが攻撃してこないぶんだけ、彼らが有利だ。