幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「副長!」
斉藤先生が叫んだ。
周りを囲んでいたもののけの群れから、ひとつの影が飛び出したから。
それは、山南先生だった。
彼は副長めがけて、ヒレの鎌を振り下ろす。
それを合図にしたように、他のもののけたちもいっせいにこちらに襲いかかってきた。
「ちっ……!」
──ギイン!
ヒレの鎌と副長の刀が火花を散らす。
「くそっ。お前ら、邪魔だよ!」
平助くんはそう叫ぶと、何もない空間で刀をぐるりとなぎ払う。
するとその刀から発生した冷気が氷の壁を作り、もののけたちを押し返した。
反対側にいたもののけに向かい、斉藤先生が刀を手に走る。
その間にも、理性を失った山南先生と副長が、つばぜり合いのように至近距離で押し合う。
「山南さんっ……いい加減に、しろよ……!」
強い力の押し合いで、副長の刀の鍔がかちかちと鳴る。
「そんなに……俺が憎いかよ、山南さん!」
あたしは耳を疑った。
あの鬼の副長が、泣きそうな顔をしている。
その喉から出ているのは、嗚咽のようにも思えた。