幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「あ、あれ」
塀の近くの茂みに、土方副長がいるのが見えた。
その向かいには、頭を丸めて袈裟を着た、若いお坊さんが。
総司に引き留められ、建物の影からそちらの様子をうかがう。
西本願寺のお坊さんと見られる彼が、副長に文らしきものを手渡した。
少し桃色に染めた頬で、何か言っているみたいだけど……声が小さすぎて、聞き取れない。
一方、副長は後姿で、その表情はわからなかった。
やがてお坊さんは一礼すると、茂みの中へと姿を消して言った。
もともとここの人だもの、抜け道か近道みたいなものを知っているのかもしれない。
「出て行っても大丈夫そうだな。行くぞ」
笑顔を取り戻した総司が言う。
「なんでニヤニヤしてるの?」
「なんでって、決まってるだろ。土方さんをからかうんだよ。
土方さん、今帰りましたー!」
総司は勢いよく、物陰から出て行く。
慌ててその後についていくと、副長がゆっくりとこちらを振り返った。
「あ?おお」
副長はこちらに全く気付いていなかったみたいで、はっと我に返ったような顔をしていた。