幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「ど、ど、どうも……」
戸惑いでそれしか言えないでいると、土方副長は無表情で背を向け、すたすたと屯所に戻っていってしまった。
「ど、どうしたんだろ副長」
副長、かなり変だった。
伊東先生のうっとり攻撃も大嫌いな副長が、お坊さんに恋文渡されても何の反応もしないんて。
少し前なら、お坊さんも、からかった総司も、大声で怒鳴り飛ばしたはずだ。
「……引越しが終って、気が抜けちまったかな」
「え?」
「山南さんが死んでから、すぐに屯所移転……泣いてる暇もなくて、疲れちまったかな」
ハッとして、副長の背中を振り返る。
その背中は以前よりも丸まっていて、どこか寂しそうだった。
そんな元気のない副長を見ると、胸がまた苦しくなる。
彼は、あの一件のあとも、一言もあたしを責めなかった。
号泣する局長や他の幹部と違って泣き言なんか言わなかったし、いつも通りの鬼っぷりで隊をまとめ、見事な要領の良さでさっさと引越しを終えた。