幕末オオカミ 第二部 京都血風編
『ミツ姉さま、抱っこして……』
『あら宗ちゃん。
あなたは武士の子なのに、甘えん坊ね』
そう言いながらも、ミツ姉さんだけは俺を可愛がってくれた。
だけど、それは義兄さんがいないときだけ。
やがて、ミツ姉さんは自分の子を妊娠してしまう。
『宗ちゃん……ごめんね、ごめんね……。
姉さまだけじゃ、あなたを立派な武士にしてあげられないの』
働けない母と、食べるのがやっとの、稼ぎの少ない夫婦。
下の姉が嫁に行っても、新たな家族を迎える沖田家にとって、俺はお荷物以外の何物でもなかった。
『……大丈夫。ぼく、行くよ。
赤ちゃん、産まれるんだもんね』
そうして俺は、江戸の試衛館に下働きに行くことになった。
本当は姉に泣いて甘えたかったけど、お腹の子に障るといけない。
だからミツ姉さんに抱きつくのも我慢して別れたあと……。
俺はとぼとぼと、親戚に手を引かれ、すすり泣きながら試衛館に向かった。