幕末オオカミ 第二部 京都血風編


ハッと息を飲む音が聞こえたかと思うと、近藤先生は竹刀をゆっくりと地面に置いた。


そして、のしのしと俺に近づくと、
汚れた着物のエリをつかんで、無理やり開く。


『……宗次郎……』

『これは……』


おかみさんも息を飲んだ。


それもそのはず。


小さな俺の体には、
母が箒で叩いた痕や、火挟みを押し付けた火傷が残っていたから……。


理由のわからない体の震えが、止まらない。


そんな俺を、近藤先生はギュッと抱きしめた。


『大丈夫。大丈夫だ、宗次郎。

ここにはお前をいじめる人は誰もいないよ』


『勝太さん……』


『大丈夫。
今日から俺が、守ってやるからな』


たくましい腕の中にすっぽりとおさまると、その温かさに、恐怖が溶かされていく。


近藤先生は、すぐに見抜いてくれたんだ。


俺が竹刀の音や、稽古の様子から、
折檻された記憶を思い出してしまうことを……。


それ以上は何も言わず、近藤先生は俺が落ち着くまで、抱きしめたままでいてくれた。


ミツ姉さん以外から抱きしめられるのは、赤子の時以来だった。




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