幕末オオカミ 第二部 京都血風編
なのに、素直にうなずけなくて、唇が震えた。
うんと言えば、もう二度と総司やみんなに会えない……。
「それほどの生きがいを、新撰組に見つけたということか?」
返事をしないあたしに、上様が優しい声音で聞いた。
「まさか、上様の側室という身でありながら、新撰組の中に男ができたんじゃなかろうな」
一橋公の鋭い追及に、体がびくりと震える。
「いいえ……いいえ!」
総司のことがばれたら、彼は不義密通の罪で斬首にされてしまうだろう。
激しく首を横に振ると、一橋公が何か怒鳴ろうと大きく息を吸う音が聞こえた。
しかし、それを上様が手を上げて止める。
「……とにかく、今日の話はこれで終わりにしよう。
楓、申し訳ないが明日はもう少し量をもらうかもしれない」
量を……とは、血のことだろう。
「余は黒書院で休むこととする。ここはお前に貸してやる。
松本、楓に食事と着替えを。
布団も用意してやるように」
「御意」
「慶喜、お前がそんなに怖い顔でにらむから、楓が震えているじゃないか。
一緒に来い」
そう言われた一橋公は、舌打ちをひとつして、上様のあとに続いて部屋を出て行く。
最後に松本さんが、軽く礼をしてふすまを閉めた。