幕末オオカミ 第二部 京都血風編
黒書院の中はあたしがいた部屋とは違い、黒い壁に金箔を使った豪華な絵が描かれていた。
「上様」
上様は布団の上で、絹の襦袢のまま、お腹を押さえて座り込んでいた。
苦しそうに眉根は寄り、顔にびっしょりと汗をかいている。
「楓……か」
「上様……」
「……っ、ぐう……」
上様は苦しそうに、体を折り曲げる。
こんなに苦しそうなのに、普通のお医者さんじゃ助けてあげられないなんて……。
「普通の薬は?」
「もちろん、飲ませてみました。けれど……」
松本さんに聞いていると、どさりと音を立て、上様が布団の上に倒れてしまった。
「……だ、い……」
上様の口から小さな声が漏れるけど、聞き取れなくて、顔を寄せる。
「御台……」
御台様?和宮様のことだよね?
意識がもうろうとしているのか、上様はうわ言のように何度も御台様を呼ぶ。
「松本さん、何か刃物を」
「えっ?」
「血を飲ませましょう」
あたしが言うと、松本さんはうなずき、部屋の隅に置いてあった薬箱のようなものから、小さな刃物を取りだした。