幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「消毒をしなければ」
「良いです。時間がありません」
あたしは見たことのない小さく細いそれを受け取ると、自分の左手首の内側に薄く傷をつけた。
すっと赤い線が走ると、そこから血が少しずつ溢れる。
「上様、飲んでください」
手首を上様の口に寄せる。
上様はまだなんとか意識があったようで、手首からしたたる血に自分で唇を合わせた。
けれど、少し舌でなめとると、口を離してしまう。
血の生臭さに耐えられないのか、むせるように咳き込んだ上様は、手首から顔を背けた。
「上様、もう少し……」
池田屋の時の総司が、どれだけあたしの血を飲んだのかは、詳しくはわからない。
けど、すぐに気を失うくらいの傷を負った時点で、噛みついた総司の口には結構な量の血が入ったはず。
それで、今まで副作用みたいなものはないんだから……もう少し、飲んだって大丈夫な気がする。
松本さんが上様の体を起こし、あたしはその口に再度手を寄せる。
けど、上様は顔を背けるばかりで、溢れた血は布団を汚すだけだった。
もう……もったいないじゃん!