幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「いい加減にしてよ!
あたしだって、手え切って、けっこう痛いんだからね!」
少し大きな声を出すと、ハッとしたような顔で上様がこちらを見た。
「御台様が大事なんでしょ?じゃあ、早く元気にならなきゃ!」
「……楓……」
「きっと御台様も、上様が元気に帰ってきてくれる日を、心待ちにしていますよ。
さあ、飲んで!」
もう一度手首を上様の目の前に持っていく。
すると上様は、ためらいながらも口を開けた。
肘まで伝った血を舐めとると、傷口を唇で塞ぎ、ゆっくりと吸い始める。
「つ……っ」
傷口が痛い。
けど、我慢しなきゃ。
じっと上様の様子をうかがっていると、呼吸がだんだんと落ち着いてきて、額から汗がひいていった。
楽になってきているみたい……。
「上様、上様!一度離してください!」
松本さんの声が響いて、ハッとする。
あたしも、少しぼおっとしていたみたい。
血を流しすぎたかな……。
上様が口を離すと、松本さんがすぐに傷の手当てをしてくれる。