幕末オオカミ 第二部 京都血風編
局長が名前を呼ぶたび、総司の顔が脳裏に浮かぶ。
総司……。
「……すまん、血が足りないんだったな。
話は後にしよう。夕餉の支度をしてもらったから、食べるといい。
まず、滋養をつけないとな」
局長は体を離すと、照れ臭そうにあたしにお膳をすすめる。
けれど、それに手を付ける気にはなれなかった。
あたしは局長に向き合って正座しなおすと、ひとつ息を吸う。
「局長、あたし……上様と共に行きます」
静かな部屋に、自分の声だけが反響した。
局長は目を見開き、あたしを見つめる。
「内緒ですが、上様はお体が少し弱っていて……上様に何かあったら、幕府の一大事。
新撰組にも、いい影響はないはずです」
「だから、『薬』として、上様と共に生きると?」
「はい……」
「それがきみの本当の望みなのか?
ついてこなければ、我々新撰組に罰を与えるとでも脅されたんじゃないのか?」
局長はあたしの両肩をつかみ、じっと目を見つめてくる。
やっぱり……あたしの下手な嘘なんか、すぐに見抜かれちゃうよね。