幕末オオカミ 第二部 京都血風編
裸足のままだだっ広い庭園に出たあたしは、絶句した。
ちょうど日が沈んだ直後の薄暗い空が、黒い鳥に覆われていたからだ。
そして、二の丸御殿の全体が、茶色の何かにびっしりと張り付かれていた。
「楓くん、あれが何かわかるか?」
忍は夜も動き回る訓練を受けているから、暗闇の中でも普通の人よりは良く見える。
それを知っている局長に問われ、あたしはもぞもぞと動いている茶色の物体に目をこらす。
「さ……さる?」
「は?」
「おさる……っぽい、んですけど……」
やがて、キイキイと猿の鳴き声のようなものも聞えてきた。
茶色の塊は、ふさふさの毛を持ったサルの群れのようだ。
よく見ると、その塊の中から、たまに赤い顔やお尻がのぞく。
「なんだと!なぜ猿の群れが城を襲うと言うのだ!」
近くから怒鳴り声がしてそちらを見ると、一橋公が顔面蒼白でこちらに近寄ってきていた。
「なぜって言われても……」
総司にさんざん山猿とからかわれたあたしだけど、さすがに猿と話をする能力はないし……。