幕末オオカミ 第二部 京都血風編
・時代のうねり
慶応2年7月下旬(現暦8月下旬)
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。
あれから狼化はしてねえし」
上様に直談判したあの日から1年と少し経った頃、総司はうざったそうに答えた。
何かにつけて、あたしが総司の体のことを根掘り葉掘り、うるさく聞くからだ。
最初は素直に答えていた総司も、さすがに鬱陶しくなってきたみたい。
「だって、心配なんだもん」
「そんなに心配なら、自分で聞いてみろよ」
二人きりの室内は、まだ暑い残暑の空気が残っている。
その中で、総司があたしの頭を胸に抱き寄せ、耳をぴったりとつけさせた。
と思うと、総司はぎゅうとあたしを抱きしめ、口を寄せようとする。
「そうじゃなくて!ちゃんと定期的に診てもらった方がいいよ!」
松本さんは去年の秋から、征長のために上様についていくことになり、京を離れてしまっている。
それから冬には局長の長州訊問使に従った出張があったり、あたしもこっそり上様の元へ行って血を献上したり、けっこう忙しかった。
そのため、今も総司との祝言の話は進まないまま。
局長が知らないうちに、あれこれ始めるわけにもいかないもんね。
落ち着いたらでいいか、と思っているうちに、もう夏も過ぎかけていた。