幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「ん?」
すぐ先にあった床屋から、一人の男が出てきた。
町人髷に、着物に羽織と普通の格好だけど……なんとなく、まとっている雰囲気がただの町人ではないような……?
もしや、町人風に変装した討幕派か?
目が合わないように注意しながら見ていると、男は急にぐるりと辺りを見回した。
おっと、一度離れた方がいいかもな。
あたしはその場から立ち去ろうとする。
けれどあの男、どこかで見たことがあるような……。
「おい、お前」
ぎくっ。
後ろから声をかけられるけど、聞こえないフリをしたまま歩き続ける。
すると……。
「お前、楓だろう?余の顔を見忘れたか?」
え?なんで、あたしの名前……しかも、『余』って……。
そんな一人称を使っていいのは、この国でただ一人。
あたしはおそるおそる振り返る。
すると、その男は目の前まで大股で近づいてきた。
その顔を見て、あたしは思わず息を飲む。