幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「ひ、ひ、一橋公……じゃなくって、うえさ……」
最後まで言い切る前に、ぎろりと恐ろしい視線でにらまれた。
やっぱり!この人、前の禁裏守衛総督・一橋慶喜改め、15代将軍徳川慶喜だ~!!
「な、な、なんで、どうして、こんなところに……」
少し前に上洛されたというのはもちろん知っている。
けど、今は二条城にいるはずなのに、なんで庶民の格好をして街をふらついてるわけ?
しかも、お供もつけずに一人みたいだし。
家茂公が生きていた頃にひどい扱いを受けた記憶が甦り、思わず二歩後ろに下がってしまった。
「なに、お前たちに話があってな。今日は沖田と一緒ではないのか」
「ええ……沖田は巡察中ですけど……」
いったいなんの用なんだろう。
「よし、沖田を探しに行くぞ」
「えっ?」
上様はあたしの前を、すたすたと歩いていく。
そして、突然こちらを振り返り、こちらをにらんで言った。
「何をしておる。早く案内せぬか」
「あ、でも、あの……」
「早く!」
「はっ、はいっっ」
あたしは言われるまま、斉藤先生から教えてもらったやり方で、総司の気配を霊力で追う。
上様はその様子をかなり訝しげに見ていた。