幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「静かにしろ」
不意に、後ろから体に腕を回され、口元を抑えられた。
どきりとして抵抗しようとしたけど、相手は意外に力強くて抵抗できない。
そのうちに伊東さんたちの姿は遠ざかり、豆粒になっていた。
ああっ、せっかく重要な話を聞いていたのに、逃げられちゃったじゃないか!
ふと力をゆるめられて振り向くと、そこにいたのは……。
「さ、斉藤せ……」
「静かにしろと言っただろ」
笠をかぶり、顔が見えにくいようにはしているけど……たしかに斉藤先生だ。
「こちらに来い」
ぐいと強い力で腕を引っ張られ、高台寺とは逆の方向へ連れて行かれた。
そして小さな茶店の店先で、他人同士を装って背中合わせに座った。
「あれ以上つけていたら、確実に気づかれたぞ。
伊東を甘く見ない方がいい」
そっか、話を聞くのに夢中だったけど、ひそひそ声が聞こえるくらいだったから、結構近かったよね。
「それで止めてくださったんですか」
「ああ。あれだけの話が聞けたなら、もう十分だろう」
「あの人は……黒ってことですね」
「下手人は本人か、その一派かどうかはわからんがな」