幕末オオカミ 第二部 京都血風編
『なんだ、今のは?』
『宗次郎、大丈夫か?』
二人分の足音が背後から響き、はっと我に帰る。
月に雲がかかると同時に振り向けば、目を丸くした近藤先生と土方さんが、俺を見つめていた。
「……それが、俺の人狼の姿を二人に見られた最初のときだった」
月が隠れ、正気に戻った俺は、全身から血の気がひいていく音を静かに聞いていた。
耳やしっぽを見られたに違いない。
きっと彼らも、母のように豹変して、自分をいじめるんだ……。
たとえようのない絶望感が、胸を満たす。
泣くこともできずに、俺はただうつむいた。
『そ、宗次郎、お前……』
口のうまい土方さんさえ、何も言えなくなったみたいだった。
だんだん怖くなって、膝が小刻みに震えだす。
そんなとき、近藤先生の声がした。
『な、なんて可愛いんだ……!』
え?
俺は思わず顔を上げる。
すると近藤先生が、いつもと変わらない笑顔で俺に近づいてきていた。
『俺……犬が大好きなんだ!』
もう耳もしっぽも消えているというのに、近藤先生は俺を抱きしめ、ほおずりした……。