幕末オオカミ 第二部 京都血風編
・油小路事件
慶応3年11月18日
厳しい冬の寒さの中、あたしたちは会合が行われている近藤局長の妾宅がある木津屋橋の東、本光寺のあたりで伊東をまちぶせることに。
かじかむ手を温めようと吐いた息が、白い。
「……来たぞ」
総司の声で、まちぶせる隊士たちに緊張が走る。
ちなみに永倉先生と原田先生は、このあと御陵衛士をおびき寄せる予定の油小路の方へ行っている。
隠れている板囲いの間からのぞくと、闇夜の中で、伊東の提灯がぼんやりと光りながら揺れているのが見えた。
局長のところでお酒を飲まされてご機嫌になったのか、謡曲を歌う伊東の声が聞こえてきて、隊士たちが槍や刀をぎゅっと握った。
そして、目の前に伊東がさしかかる。
すると、一際早く槍をかまえた隊士が、それを板囲いの間から思い切り突き出した。
──ドス!
槍は伊東の右肩を貫き、喉へと達する。
それを合図に、集まっていた10名ほどの隊士たちがいっせいに伊東に斬りかかった。
「ぐう……っ!」
伊東は自分に突き刺さった槍を力任せに引き抜く。