幕末オオカミ 第二部 京都血風編


「ひるむなっ!斬り捨てろ!」


とうとう総司が伊東の前に姿を現すと、放心状態だった隊士たちが、刀を握りなおす。


「沖田君……残念ですよ。きみのことは、好きだったのに」

「そういうの、要りませんから」


裂けたような口から赤い舌をのぞかせる伊東に、総司は鳥肌を立てながら応じる。


「斬れっ!」


総司が命令すると、隊士たちが一斉に伊東に斬りかかる。

けれど……。


「わあっ!」


振り下ろされた刀は、鱗にはじき返される。


そのついでに振り回された尾に腹を打ちつけられ、数名の隊士が吹っ飛んだ。


「手負いの相手一人に、何やってんだよ!」


総司が低い声で怒鳴るけど、隊士たちは伊東の信じられない姿に怯えて青くなってしまっている。


「拙者は土方くんを馬鹿にしすぎていたようですね……。
簡単に金を出し、酒まですすめてくる時点で、もっと疑うべきだった」


「そうですね。おめでたいとしか言いようがない」


総司は冷たく言い放つと、自ら刀を抜いた。



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