幕末オオカミ 第二部 京都血風編
その間に、伊東の裂けた口から、他の隊士たちに向かって、何かが吐き出された。
「何あれ……!」
紫の霧のような気体が、隊士たちの間に立ち込める。
その途端、その霧にまかれた隊士たちは次々と、眠るように静かに倒れ込んでしまった。
「みんなっ!」
「伊東、何をした?」
「ふふ、眠らせただけですよ。あとで食べてあげます」
不敵な笑みを浮かべ、伊東はこちらに向かってぱっくりと口を開けた。
「楓!」
紫の霧が吐き出された瞬間、総司があたしを抱き寄せる。
あれを吸い込んじゃいけないってことだろう。
あたしは総司の胸に顔をつけ、息を止めてぎゅっと抱きついた。
しゅうしゅうと、醜悪な音が広がり、少しずつ静まっていく。
息が苦しくなってきたとき、総司がそっと腕の力をゆるめた。
顔を離し、その顔を見上げると……。
「あっ!」
いつの間にか、総司の頭に耳が生えていた。
金色の瞳が、こちらを見つめる。