幕末オオカミ 第二部 京都血風編


『それには、この世に未練なく死んでいったばかりの、もののけの体が必要です』


そうでなければ、元の魂と体はなかなか離れられず、同化はうまくいかないらしい。


それ以外にも、魂と体との相性もあり、同化は簡単なものではないと、彼は話した。


『都合よくあなたの魂に適合する体が見つかるかはわかりません。どうしますか、藤堂殿』


このまま死ぬか、もののけと化すか。

しかもそれも、うまくいくかどうかはわからないなんて。


「それなら、どうして山南さんが死んだときにそのことを教えてくれなかった?」


『あの方の魂は、既にこの世を離れようとしていた。
生きようという強い意志がなければ、無理やりに同化はできません』


ということは、山南先生は、切腹を願い出た時点で、この世で生きる意志をなくしてしまっていたということか。


「平助くん……」


ああしろ、こうしろ、なんて言えない。


ただぎゅっと手を握ると、彼の色を失った唇が、震えながら動いた。


「……もののけでも、なんでもいい。頼むよ」


「藤堂、いいのか」


「うん……だって、俺、まだ生きたい。
こんなところで終るなんて、冗談じゃない。
もっと、もっと、大好きな新撰組のみんなと生きていたい……!」


平助くんの手が、強くあたしの手をにぎりかえす。


それは、陽炎にも山南先生にも見られなかった、“生きたい”という強い願いの表れ。


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