幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「そうそう、最初からおとなしくそうすればいいんだよ」
総司は嫌々ながら、枕元にあった短刀を取る。
それを抜き、あたしの腕をとり、刃を当てようとした。けれど。
「もう少し見えないところにしよう」
二の腕まで襦袢をめくる。
「ああでも、忍び装束だとここも見えるか」
そう言って、襟をくつろげたり、すそを割ったりするけれど、傷を付ける場所がなかなか決まらない。
「あのー、総司?」
もうほとんど脱がされちゃったような気がするんだけど……。
「……ダメだ。やっぱりできない」
総司はぽつりと言うと、短刀を鞘におさめてしまった。
「笑うよな。新撰組一番隊隊長ともあろう俺が、女に傷をつけることが怖いだなんて」
苦笑した総司は短刀を置くと、そっとあたしを抱き寄せた。
「お前だけは、斬れそうにない」
そんなこと言うなんて、反則だ。
そう思うけど、総司の胸の中は温かくて、不安でささくれていた心がなめらかになっていってしまう。
敵には容赦しない、ときには同志の介錯さえ請け負う総司が、あたしだけは斬れないだなんて。
「もう。じゃあ、口……吸って」
ドキドキと鳴る胸を押さえてまぶたを閉じると、総司がそっと、あたしを布団に横たえた。
どうか……池田屋のときの悪夢を繰り返さないで済みますように。
どうか、この人とずっと一緒にいられますように。
祈るうち、日々は過ぎていった。