幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「……バーカ」
そっと、耳元に顔を寄せて囁く。
「俺の方が幸せに、決まってんだろ」
そう言うと、人目も気にせずにあたしをぎゅっと抱きしめた。
その途端、ぼろぼろと大粒の涙が溢れだす。
あたしでも、幸せになれる。誰かを、幸せにできるんだ。
ずっと自分の無力さを悔やんでばかりいたけど、これからはそんな必要ないんだね。
ちっぽけな存在だけど、あたしが生きていることにも意味がある。
そう教えてくれたのは、いつもいつも……総司、あんただった。
「あっ、な、涙!」
「は?」
「これも、薬!もったいないから、舐めて!」
「ああ、そうか」
まぶたを閉じると、総司の唇がまつげの際をそっとなぞっていく。
たったそれだけで、周りから冷やかしの声が飛んだ。
「こらー!人前でいちゃいちゃしすぎ!」
「総司っ、俺はお前をそんな男に育てた覚えはないぞ!」
平助くんと近藤局長に言われ、涙をすくった総司は平然と答える。
「いいじゃないですか。こいつは俺の特効薬なんですから」
「うげっ、総司が飲みすぎて性格変わっちまった!」
永倉先生が眉をひそめる。
その様子を見て、原田先生が大笑いした。