幕末オオカミ 第二部 京都血風編
あたしたちが到着したのは、昼を過ぎた頃だった。
幸運なことに、壬生の方まではまだ火の手が回っていなかった。
山南先生のことを思い出してホッとするまもなく、一番隊の隊士が声を上げる。
「沖田先生、あれは一体……?」
隊士が指差したのは、獄舎の屋根だった。
その上で、2つの影が踊る。
「あれは……忍?」
どくんと、心臓が跳ねる。
そこにいたのは、長い帯と三つ編みにした髪を翻して跳躍する、くの一だった。
そう、あたしと同じ……。
頭巾で顔を隠しているくの一が、小型の苦無をもうひとつの影に向かい、何本も投げつける。
風を切るようなそれを身を翻して避けるのは……。
「なんだ、あれは……?」
濃い灰色の長髪に、青色の目。
浅黒い肌で身の丈の大きな、猫背の男……。
袴をつけず、上半身も裸で、着物が帯でぶら下がっている状態だ。
「まさか……」
隣の沖田が、その男を凝視してつぶやいた。