幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「人、狼……?」
あたしも思わずつぶやく。
そう、その男は、狼化した沖田にそっくりだったから。
むき出しの手から伸びる爪。
唇の間からのぞく牙。
かろうじて、耳や尻尾は見えないけど、気配でわかる。
あれは、人狼……みたいなもの。
声も出ないまま見つめていると、人狼がこちらに顔を向ける。
すると、くの一も、こちらの視線に気づいたみたい。
「……ちっ!」
舌打ちをすると、武器をしまい、代わりに取り出した煙幕を、足元に落とした。
「総司、どうする?」
「ちっ。曲者だ。追え!」
指示された隊士は、姿を消したくの一の探索に走っていく。
「沖田先生、あの者は?」
別の隊士が聞く。
もうひとりの人狼は、屋根の上からこちらを悠然と見下ろしていた。
「……降りてこい。聞きたいことがある」
総司が話かけると、相手はくぐもった声で、もそもそと話した。
「新撰組、沖田総司……あなたとは、いずれまたまみえることとなりましょう。
今はまだ、その時ではない。
また……お会いしましょう」