幕末オオカミ 第二部 京都血風編


「人、狼……?」


あたしも思わずつぶやく。


そう、その男は、狼化した沖田にそっくりだったから。


むき出しの手から伸びる爪。

唇の間からのぞく牙。


かろうじて、耳や尻尾は見えないけど、気配でわかる。


あれは、人狼……みたいなもの。


声も出ないまま見つめていると、人狼がこちらに顔を向ける。


すると、くの一も、こちらの視線に気づいたみたい。


「……ちっ!」


舌打ちをすると、武器をしまい、代わりに取り出した煙幕を、足元に落とした。


「総司、どうする?」


「ちっ。曲者だ。追え!」


指示された隊士は、姿を消したくの一の探索に走っていく。


「沖田先生、あの者は?」


別の隊士が聞く。


もうひとりの人狼は、屋根の上からこちらを悠然と見下ろしていた。


「……降りてこい。聞きたいことがある」


総司が話かけると、相手はくぐもった声で、もそもそと話した。


「新撰組、沖田総司……あなたとは、いずれまたまみえることとなりましょう。

今はまだ、その時ではない。
また……お会いしましょう」


< 52 / 404 >

この作品をシェア

pagetop