幕末オオカミ 第二部 京都血風編
人狼はくの一が残していった煙幕の煙の中へ飛び込んだ。
「待て!」
総司が怒鳴った、次の瞬間……。
「わあぁっ!」
「お、狼だ!」
隊士たちが驚きの声を上げた。
それもそのはず、煙から灰色の塊が勢いよく飛び出したと思ったら、それは尻尾が二股に別れた狼だったのだ。
狼は獄舎の屋根から、隊士たちの頭を飛び越し、戦火渦巻く京の町へと、あっという間に消えていってしまった。
「総司……」
見上げた総司は、戸惑った表情をしていたけど……ふるふると首を横に振った。
「とにかく今は、土方さんの命令を……」
と言いかけたとき、獄舎の壁のむこうから、まるで隙間風のような奇妙な音が聞こえてきた。
それは低い低い、怨念のこもった……
「悲鳴……?」
あたしたちはそこから一歩退く。
しかし音は、不気味に渦を巻き、大きなっていく。
『うわぁぁぁ……』
『ぐえおぉぉぉ……』
これは人の悲鳴?まるでもののけの唸り声みたい。
得体の知れない不気味さに、耳を塞ぎたくなる。