幕末オオカミ 第二部 京都血風編
き、キレイだなんて。
いまだにこういう甘い言葉に慣れていないあたしを見て、総司はふっと笑い……背をかがめて、ひとつだけ口付けをした。
「お前、こういうときだけは本当に静かだな」
なんだよ、こういうときだけって。
普段がすごくうるさいみたいじゃない。
……でも、静かになっちゃうのは本当だから、言い返せない。
だって、すぐに胸がいっぱいになっちゃって……本当に言葉が出なくなってしまうから。
「……さ、行くか。
お前も一緒に呼ばれてるから」
「そうなの?
じゃあ、あの六角獄の一件のことかな」
山南先生が傷を負った経緯については簡単に説明したけれど、
屋根の上にいたくノ一と人狼のことはまだ、局長たちは詳しく知らない。
「たぶんな。ほら……手」
総司は大きな手のひらを、あたしに差し出した。
灰の山をひっくり返すような毎日の隊務で、その爪の間は黒く汚れているけれど、
それすらも愛しい。
「ありがと」
あたしは小さな子供みたいに、総司に手を引かれて屯所へと戻っていった。