幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「なんでそう可愛いことばかり言うんだよ、お前は」
昔は憎まれ口ばかりだったのに。
そう言いながら総司は、その形の良い唇であたしの口をふさぐ。
それはお互い様でしょう!
昔は「可愛い」なんて、口が裂けても言わなかったのに。
息が苦しくなって総司の襟元をつかむと、布団も敷いていない畳の上にそっと横にされた。
「……ごめん、我慢できねえ。
本当は、夫婦になってからするべきなのにな」
でも、と総司はあたしの首の傷跡に口づける。
「今のままじゃ、いつ誰に奪われるかわかんねえ……」
「誰も奪ったりしないよ!」
だって、隊の中でもめたら、切腹でしょ?
そうでなくても、総司にケンカ売る命知らずは、ここにはいないよ。
「心配しなくても、あたしだって浮気なんかしないから」
そう言うと、総司は顔を離して、ふっと笑った。
「……ほんと、俺は果報者だよ」
さらりと流れた黒髪が、あたしの鎖骨をくすぐる。
まだ蒸し暑い京の夜の空気が、ますます暑く薫っていく。
総司がそう思ってくれるなら、あたしも幸せだよ。
声を出さないように叱られながら、あたしはぎゅっと総司にしがみついた。