幕末オオカミ 第二部 京都血風編
第二章
・新派加入
元治元年 9月(現暦10月)。
だいぶ涼しくなってきた京の街。
あたしは監察の仕事を終えた後、山南先生の部屋を訪れた。
「山南先生、お邪魔しても良いですか?」
「ああ……どうぞ」
声をかけると、部屋の中から元気のない声が帰ってくる。
それが、いつものことになってしまった。
あたしは、できるだけ笑顔で、お茶とお菓子を持って先生の部屋に入る。
「どうしたんだい?」
「またよくわからないところがあって」
「どれどれ」
あたしは、古本屋で調達してきた源氏物語を先生に差し出す。
もともと読み書きが得意でなかったあたしに、山南先生は優しく教示してくれた。
「楓くんは勉強家だなあ。
どんどん綺麗になっているみたいだし、総司がうらやましいよ」
「え、やだなあ。からかわないでくださいよ」
こうして軽口をたたいてくれるのは、比較的気分が良い証拠だ。
優しい山南先生は誰にも八つ当たりをすることがない代わりに、ふさぎこんでしまうから心配なんだよね。