幕末オオカミ 第二部 京都血風編


そんなある日……。


非番だったあたしは、山南先生の部屋を訪れた。


「先生、楓です。また教えてもらいたいところが……」


いまだに源氏物語を読破していないあたしは、本を持ってそっとふすまを開ける。


すると山南先生は、もう昼間だというのに、まだ布団に入ったままこちらを振り返った。


「……どうして?」


「え?」


「私じゃなくて、伊東さんに聞きなさい。みんなそうしているよ」


気だるそうに言うと、メガネもかけずに布団の中にもぐりこんでしまう。


「山南先生……」


どうしたんだろう。様子がおかしい……。


たしかに伊東参謀が来てからというもの、読み書きなどの教えを彼に乞う隊士が多くなった。


たまに参謀が離れで勉強会を開くと、若くて教えに飢えていた隊士たちで大賑わいとなっている。


同じ知性派でも、人前が好きな伊東参謀と、怪我をして以来引きこもりの山南先生。


隊士たちは気を遣わずに近づける伊東参謀の方へと、自然と好意を寄せていった。



< 95 / 404 >

この作品をシェア

pagetop