幕末オオカミ 第二部 京都血風編
そんなある日……。
非番だったあたしは、山南先生の部屋を訪れた。
「先生、楓です。また教えてもらいたいところが……」
いまだに源氏物語を読破していないあたしは、本を持ってそっとふすまを開ける。
すると山南先生は、もう昼間だというのに、まだ布団に入ったままこちらを振り返った。
「……どうして?」
「え?」
「私じゃなくて、伊東さんに聞きなさい。みんなそうしているよ」
気だるそうに言うと、メガネもかけずに布団の中にもぐりこんでしまう。
「山南先生……」
どうしたんだろう。様子がおかしい……。
たしかに伊東参謀が来てからというもの、読み書きなどの教えを彼に乞う隊士が多くなった。
たまに参謀が離れで勉強会を開くと、若くて教えに飢えていた隊士たちで大賑わいとなっている。
同じ知性派でも、人前が好きな伊東参謀と、怪我をして以来引きこもりの山南先生。
隊士たちは気を遣わずに近づける伊東参謀の方へと、自然と好意を寄せていった。