幕末オオカミ 第二部 京都血風編
山南先生……だいぶ参っちゃってるみたい。
同じ知性派同士、話が合うには合うんだろうけど……平助くんの目論見が、裏目に出てしまっているような気がする。
現に隊士の中には、山南先生を『形だけの総長』『ただの飾り』と陰口をたたく者までいた。
「とにかく、お茶!」
台所へ向かって走ると、角から誰かが出てきてぶつかってしまった。
「……小娘」
「ふ、副長!」
ぶつかっても動じずにあたしを見下ろすのは、土方副長だった。
「何を急いでるんだ」
「えっと……お茶を淹れようと思って」
そう言ったあたしの肩越しに、副長は山南先生の部屋のふすまが少し開いているのを見てとったようだった。
「山南さん、何かあったのか?」
「ちょっと……情緒不安定みたいで。
心を落ち着かせるお薬とか、あればいいんですけど……」
副長は、隊内のことを把握する義務がある。
それに、山南先生のことが好きなこの人なら、悪いようにはしないだろう。
そう思って見上げると、副長は静かにうなずいた。