聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「今日は、泣いていないのか。お前はいつも泣いている」

響きのよい声に、リュティアの心が震える。声が、耳に届いたことで、やっと焦がれた人が目の前にいるのだと実感する。それは静かに鼓動の音を速めていく…。

「私は…そんなに、泣き虫ではありません」

「ではなぜ、泣いていた?」

ライトの質問は、短かった。それがどういう意味なのか、リュティアにはわからなかった。

以前会った時泣いていた理由を聞いているのか、それとも今リュティアの頬に残る涙の跡を見てそう言ったのか。

返答に困りながら、ライトと目が合って、リュティアは本当に泣きたくなってくる。

なぜなら、彼の浮かべるその表情が、やわらかいからだ。前もそうだった。敵同士だと言いながら、その手は優しかった。

―その優しさが染みて、泣けてくるのではないか。

「そうやって、あなたが、泣かせるのではないですか」

リュティアは精一杯、そう返した。するとライトは軽く眉をひそめる。

「俺が…? わからないな」

二人の間に沈黙が落ちた。

ふわりと風がその動きをゆるやかにし、木々のざわめきが止まる。湖を漂う波紋が消えて曇りない鏡となり二人を映し出す。ただ金の落ち葉だけが、静かに降る。

それは優しい沈黙だった。

なぜこんなにも優しい時間が流れるのか、その答えを二人は知らなかった。ただ二人の頬に、腕に、触れては落ちていく落ち葉だけが、その答えのヒントを二人にそっと投げかけていく。

「俺を憎んだか」

「………いいえ」

「憎めと言ったはずだ」

「はい」

「ではなぜ、憎まない。お前は、わからないことだらけだ…」

ライトは左手でくしゃりと自分の髪をかき乱した。その表情には明らかな困惑がうかがえる。ライトのそんな表情を初めて見るリュティアは、ただ目を奪われた。
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