聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
その一瞬。

時が、凍り付いた。



湖へ落ちるセラフィムとフューリィ。

なすすべもなく見守るパール。

そして聖具を外していなくなったリュティアを追って、今やっとここに駆けつけたカイ。



カイの目に飛び込んできた、光景――。



それは、向き合う少年とリュティア。少年の腕からは剣が伸び――

リュティアの胸を、まっすぐに刺し貫いていた…。



『リュー…?』



カイの言葉は、声にならない。唇だけが、音に見放されたかたちで、動く。

少年が剣を引き抜きながら、険をはらんだ声で言った。

「ふざけるな! そんなこと、あるはずがない…!」

その声にはどこか困惑の響きがあったが、カイには聞こえていなかった。すべての音が意味のない記号のように感じられた。

カイは目を見開き、ただ、立ち尽くした。

リュティアの体が前のめりに倒れるのを、カイはただ、立ち尽くしてみつめた。
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