聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
これですべて終わりだ、とライトは思った。

わけのわからない疑問に悩まされることもない。光と熱が自分を困惑させることもない。もう二度と、〈聖乙女〉が自分をみつめることも、頬を染めることも、涙を流すこともない。もう二度と、その声が自分を呼ぶこともない。

もう二度と…もう二度と――?

ライトは自分の視界が急に歪んだので、目がおかしくなったのかと思った。だが、頬を流れる熱い感触に、自分が泣いているのだと気付いた。

ライトは驚き、あとじさった。

―なぜ…?

涙はあとからあとから溢れ、頬を伝い落ちていく。

胸が、痛い。引き裂かれるように痛い。

―なんだ、この感情は!?

みるみるうちに空に暗雲がたちこめ、世界が闇に染まっていく。闇の力の封印が解き放たれ、今まさに禍々しい力がライトのもとに集結しようとしていた。

ライトはよろめきながら、駆けだした。彼の中を荒れ狂う激しい感情から、彼の内に注ぎこまれる強い力から、すべてから逃げ出すように。
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