聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「フューリィ、どこへ…?」
言ってから、まさかと思い至った。
セラフィムが言っていたではないか。村に魔月の群れが迫っていると。
フューリィが歩きだしたのは、まさにピューアの村の方角だった。
「行っちゃだめだ、フューリィ! 君一人で何ができる!」
パールが声を張り上げても、フューリィの背中は立ち止まらない。
「人々は避難したんだ! 君が行くことはない! フューリィ!」
どうして、とパールはもどかしい気持ちでいっぱいだった。どうして言葉とはこんなにもどかしいのだろう。
フューリィの背中が遠ざかる。その背中が、涙でぼやける。
―どうすれば友を守れる!?
パールは心の底から叫んでいた。
「行ったら死んでしまう! そんなのはいやだ! お願いだよフューリィ! 行くな! 友達だろ!」
友達という言葉に、フューリィの背中がぴくりと動いた。フューリィはやっと立ち止まると、ゆっくり、パールを振り返った。
その表情に、パールは自分の無力さを悟った。
絶対に彼を止めることができないと悟った。
フューリィの両の瞳からは透明な涙が溢れ続け、その口元は――
笑っていたのだ。
その壮絶な笑みに打たれたように、パールは身動き一つできなくなった。
なすすべもなく、パールは遠ざかるフューリィの背中を見送るしかなかった。
「パール……」
幽鬼のような声が耳に届いて、パールは我に返った。
パールが首をめぐらせると、カイがリュティアを抱き起こしているのが見えた。そのカイの両手が、真っ赤に染まっていた。あれはなんだろう、とパールは思う。リュティアの胸も真っ赤に塗りつぶされている。あの赤は――
「リュー…リュー…リューが…リューが…」
「え………?」
パールの頭の中で疑問の答えが弾き出される。あの赤は、血だと。
「え……………………?」
パールはよろめきながら、二人のもとへ駆け寄った。
―うそだ…。
そしてカイの腕の中、倒れるリュティアの腕をとる。その腕はぞっとするほど冷たい。それだけではなかった。
脈が―――ない!
リュティアの鼓動は、完全にその動きを止めてしまっていた。
言ってから、まさかと思い至った。
セラフィムが言っていたではないか。村に魔月の群れが迫っていると。
フューリィが歩きだしたのは、まさにピューアの村の方角だった。
「行っちゃだめだ、フューリィ! 君一人で何ができる!」
パールが声を張り上げても、フューリィの背中は立ち止まらない。
「人々は避難したんだ! 君が行くことはない! フューリィ!」
どうして、とパールはもどかしい気持ちでいっぱいだった。どうして言葉とはこんなにもどかしいのだろう。
フューリィの背中が遠ざかる。その背中が、涙でぼやける。
―どうすれば友を守れる!?
パールは心の底から叫んでいた。
「行ったら死んでしまう! そんなのはいやだ! お願いだよフューリィ! 行くな! 友達だろ!」
友達という言葉に、フューリィの背中がぴくりと動いた。フューリィはやっと立ち止まると、ゆっくり、パールを振り返った。
その表情に、パールは自分の無力さを悟った。
絶対に彼を止めることができないと悟った。
フューリィの両の瞳からは透明な涙が溢れ続け、その口元は――
笑っていたのだ。
その壮絶な笑みに打たれたように、パールは身動き一つできなくなった。
なすすべもなく、パールは遠ざかるフューリィの背中を見送るしかなかった。
「パール……」
幽鬼のような声が耳に届いて、パールは我に返った。
パールが首をめぐらせると、カイがリュティアを抱き起こしているのが見えた。そのカイの両手が、真っ赤に染まっていた。あれはなんだろう、とパールは思う。リュティアの胸も真っ赤に塗りつぶされている。あの赤は――
「リュー…リュー…リューが…リューが…」
「え………?」
パールの頭の中で疑問の答えが弾き出される。あの赤は、血だと。
「え……………………?」
パールはよろめきながら、二人のもとへ駆け寄った。
―うそだ…。
そしてカイの腕の中、倒れるリュティアの腕をとる。その腕はぞっとするほど冷たい。それだけではなかった。
脈が―――ない!
リュティアの鼓動は、完全にその動きを止めてしまっていた。