聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~

「やめろ! 私が相手だ!」

アクスは斧を振りかざしてゴーグに突進した。ゴーグを断ち割るつもりで一撃を放ったが、それは分厚い壁に阻まれた。

土の壁だ。

大地の力がゴーグを守っているのだ。ゴーグは村の破壊をやめ、アクスへと視線を向ける。

「んあ? お前も、どっかで見たことあるなぁ。そうだ、腹が減ってるんだ。お前から食べよう、そうしよう」

ゴーグはにたりと不気味な笑いを浮かべると一気にアクスに襲いかかって来た。

ゴーグはただでさえ大きい自身の頭の三倍はあろうかという巨大な拳を握りしめ、雄たけびと共に勢いよく振り下ろす。

アクスは慣れた戦士の勘で右へ跳びかわす。

ゴーグの拳は強力でそこにあった荷車も秤も粉々になり、さらに大地に穴があいた。

あんな攻撃を受けたら無事では済むまい、とアクスは内心ひやりとする。しかしそんな様子はおくびにも出さずにアクスは果敢に攻めた。

斧での戦いは敵の隙を突き、間合いをいかに詰められるかが大事だ。そのためにはフェイントをかけ、相手を攪乱(かくらん)する。

アクスは英雄とまで称えられた戦士なのだ。

今やパールに力を授かり、その斧は魔月の体を貫くことができる。

勝負はあっさりとつくかに思えた。

「もらった!」

アクスは有利な間合いに踏み込み、横合いから強力な一撃を見舞った。

この一撃でゴーグの体はまっぷたつになるはずだった。

しかし…

アクスの渾身の一撃は土の防御壁に弾き返されてしまった。
< 115 / 121 >

この作品をシェア

pagetop