聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
突然、鬨の声が村の内部からわぁっと押し寄せてきた。

アクスは最初空耳かと思ったが、鋤(すき)や鍬(くわ)、燃える松明などが一斉にゴーグに向かって突き出されたのを見て、それが紛れもない現実であると知った。

「やい! おいらたちだって黙っちゃいないぞ!」

「そうだそうだ! その人をはなせ!」

「フューリィ、大丈夫かい!」

あまりのうるささにゴーグはアクスから手を離した。倒れたアクスの頭上には武装した村人たちの顔がずらりと並んでいた。助け起こされたフューリィが、呆けたように「みんな…」と呟く声が聞こえる。

「あたいたちだって戦うよ! 村を守ってみせる!」

「えい! これでもくらえ!」

子供たちが一斉に手にした石をゴーグに投げつけた。もちろんその石はゴーグの土の防御壁に阻まれたが、それはゴーグを再び怒らすに十分だったようだ。

「うるさい! うるさいど! 俺はこいつから食うって決めたんだ! 邪魔するな!!」

ゴーグは雄たけびのように叫ぶと、周囲に張り巡らせた土と砂を操って村人たちの体を拘束した。村人たちは土の手錠と砂の足かせに、文字通り手も足も出なくなる。

―このままでは村人たちが危ない! アクスはゴーグの注意を自分一人に向けたくて、よろめく足を踏みしめて立ち上がり、がむしゃらに斧をゴーグの腰に打ちつけた。

すると――

ぎゃっと悲鳴をあげて、ゴーグが飛び退った。腰に鋭利な傷が刻まれ、紫の血が噴き出している。再び攻撃が効いたのだ。

アクスははっとした。

まさか――
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