聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
与えられた宿の一室に戻ってきた四人は、意識のない少年の体をベッドに横たえた。

パールは少年の姿勢にてきぱきと細かい指示を出し、リュティアがそれに従う。

アクスとカイの二人は何が起こるのかとはらはらしながら遠巻きに眺めている。

「準備は整った。今からこの少年に聖なる力を流し込んで少年に巣食っている魔の気配を浄化する。君がやるんだ、乙女(ファーレ)」

「え、わ、私ですか?」

こともなげに言いきったパールに、パールがやってくれるものとばかり思っていたリュティアの鼓動は大きく跳ね上がった。

「残念だけど僕にはもう、それだけの力は残されていないんだ。大丈夫、力の使い方はちゃんと指示を出すから、そのとおりにやってくれればいいんだ。この子を、助けたいでしょ?」

その言葉に、リュティアはおののきながらも改めて自分の気持ちを確認した。

―助けたい。

それは確かにリュティアの中で大きく膨らみつつある思いだった。

旅の途中怪我人や病院を見かけても、手当たり次第治療してまわるわけにはいかなかった。リュティアはそれを望んだが、魔月から身を隠している身の上であり、人の口に戸は立てられないと、仲間たちが反対したのだ。今なら誰も見ている者はいない。やっと何か役に立てる機会が訪れたのだから、怖気づきたくなかった。

「はい―やってみます」

リュティアの声に緊張が滲んだ。少年の運命は自分にかかっているのだ。
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