聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「僕は、完成したこの虹の錫杖の力を使って、乙女(ファーレ)の魂をなんとか黄泉の国にとどめた」

そこでカイは初めて、パールが虹の錫杖を握っていることに気がついた。錫杖は淡い光を放ち、その光がリュティアの体を包み込んでいる。

「そこから乙女(ファーレ)の魂を、みつけだして、救いだしてきてほしいんだ。それに成功すれば、乙女(ファーレ)は生き返る。―だけどそこにおにーさんが行くには仮死状態になるしかない。へたをすると二人とも死ぬ。それでも、いい?」

パールは冷静そうに見えたがその声は上ずっていた。パールも気が動転しているのだ。それに気づくと、カイは逆にほんの少しだけ冷静になれた。

「構わない…リューを助けられるかも知れないなら、この身など…」

「わかった」

パールは頷くと、しゃんと澄んだ音を立てて虹の錫杖を揺らした。そのまま胸の前にかざし、何やら小さく呪文のような言葉を詠唱する。

すると二人のそばにみるみるうちに、虹色の光の渦が出現した。

「これが黄泉の国への入口だよ。僕はここで、この入口を開いておく。僕の力でいつまでそれができるかわからないから、くれぐれも急いで帰ってきて」

「出来る限りそうする」

立ち上がったカイを、パールが真摯なまなざしで見上げた。普段強気なその瞳に心配の影がちらついた。

「何かアドバイスができたらいいんだけど…黄泉の国で何が待っているか、残念ながら僕にはまったくわからない…。気をつけて。そして必ず、乙女(ファーレ)を連れて帰ってきて」

「わかった」

二人の視線が同じ強い意志をのせて絡んだ。

―必ず、リュティアを救って見せると。

カイは虹色の光の渦をみつめ、ごくりと唾を飲み込んだ。それは恐怖だ。謎の世界へ行くのだ。怖くないはずがない。

だが、覚悟は決まっていた。

カイは光の渦に一歩、踏み出した。するとカイの生身の体は力を失い、その場に倒れる。

カイの魂が分離し透明な体となる。カイはその感覚に一瞬くらりとしたが、足を踏み出すのをやめなかった。

透明なカイの姿はやがて、光の渦の中へと消えた…。



この時もしリュティアが虹の錫杖を手にしていたら、最後の聖具のありかを感じることができただろう。

最後の聖具―虹の額飾り。

すでに死した仙人が守っていた聖具は、はたして今どこに隠されているのだろうか?
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