聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「まずはこの子の両手と君の両手を重ねて…」

「はい」

「優しく握ってあげて、それから…」

パールの声には力があり指示は的確で頼もしかった。

リュティアは真剣なまなざしを少年に注ぐ。

あちこち跳ねた黒いくせっ毛が愛らしく、その寝顔はあどけない。

一体何があったのかはわからないが、正気を取り戻してあげたい。リュティアは大きく息を吸いこんで、緊張を押し流そうとした。

「目を閉じて、満天の星空を思い浮かべるんだ。星の光が君の力の源、それをリアルに思い浮かべるだけで、君の中に力が満ちてくる」

「……できました」

「全身にあふれてきた力を両腕に注ぎこむような気持ちでいて」

背後でカイとアクスがはっと息をのむのがわかった。力の流れが光となって見えているのだろう。

「そう、その調子」パールの声を聞きながら、リュティアは自分が満天の星空の中を漂っているような錯覚を覚えていた。藍色の海の中、自由に泳ぐリュティアを、星の光があちこちから淡く照らし、包みこむ。それは身も心も天上に運ばれるように心地よく、清々しい気持ちが際限なく溢れて両腕から流れていく。

「はい、よくできました」

パールの声ではっと我に返ると、少年が小さく呻いて目を覚ますところだった。
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