聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
確かに一見するとこの空間にはむき出しの土と岩の他は何もなかった。どの鉱山にもある、掘ったはいいが何も採掘されなかった場所といったかんじだ。

カイとアクスも何かないかとランプをかざし、きょろきょろあたりを見回している。

が―――

リュティアとパールの二人だけは、厳しい表情で一点をみつめていた。

「……原因はこれですね、パール」

「うん、間違いない…」

「間違いないって、なんのことだ?」

「みんなにもわかるようにしよう。おにーさん、ちょっとランプ持ってて。フューリィはちょっと目を閉じてて」

カイとフューリィが言われたとおりにすると、パールは不意にそそりたつ壁に向かって両手をかざした。するとその両手からあたたかで清らかな淡い光が湧き起こり、あたりをまばゆく照らし出した。

光はやがて収縮し一筋の光となって岩壁を照らし出す。するとどうだろう。何もなかったはずの岩壁から光の膜に包まれた何かがぬっと現れた。

それは石。ぬらりと赤く光る両掌ほどの大きさの大きな石だった。

何も感じられないはずのカイやアクスも、それを見るとぞっとなった。それほどに禍々しい輝きを放つ石だった。だがその禍々しさを、球状に取り巻く光の膜がやわらげている。

「何、何? もう目、開けていい? 開けていい? 開けるよ!」

フューリィは目に飛び込んできた謎の石に目を丸くする。

「この石が一体なんなのか、さっぱりわからない。でもこの石がすべての元凶だっていうことはわかる。採掘のせいで、これに施されていたひとつめの大きな封印式が解けてしまったんだ。だからこれの“魔の力の気配”にあてられて人々が狂ってしまった…狂うだけで済んでいるのは、ふたつめの封印がまだ生きているから」

「パール。もしかして、このふたつの封印をした人って―――」

うん、とパールがきらりと瞳を光らせて頷く。二人は声をそろえて言った。

「…〈光の人〉…」

「―なんだって?」
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