聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「セラフィム様、これ!」

フューリィが後ろからぴょんと飛び出してきて、セラフィムに例の石を差し出した。

「これが悲劇の原因だったんだ! ここにいるみんなが助けてくれたおかげで、みつけることができたんだよ!」

「セラフィムとやら、これが一体なんだか、わかるか」

重々しいアクスの問いかけに、セラフィムはしばし睫毛を伏せて黙したままだった。やがて瞳をあげ、その頬に柔和な笑顔を浮かべる。

「立ち話はいけませんね。どうぞ皆さん、お座りください」

どういった予知能力の持ち主なのだろう、神殿の中には人数分の円椅子と小ぶりのテーブルがあらかじめ用意されていた。一行はテーブル越しにセラフィムと向き合う形でばらばらと席についた。

「何からお教えしたらいいのか…」

セラフィムの背後の列柱越しの湖がまばゆく光を弾いている。それは彼の月の光の髪と調和して見事なまでの優美さで一行の目を射ぬく。

「まず、フューリィが今持っているその石についてお教えしましょう。その石は、“邪闇石”と呼ばれる石の一種です」

「邪闇石…」

「その名の通り、禍々しい力を秘めた石です。その邪闇石の中でも特に大きく、邪悪な力を秘めたものが、その石“邪闇巨石”なのです。
今から3300年の昔、星麗と魔月の戦いがあったことは知っていますね。
その戦いの最後のことでした。何かとても、とても重大なことが起こったために、光神が涙を流し、闇神を直接攻撃したのです。神々はその力が強すぎて世界を根底から破壊してしまうので、本来異界より傍観するのが定めであるのにも関わらずです。
その時の光神の涙のかけらが虹の宝玉…聖乙女が身につけている聖具の“虹の宝玉”で、その時流れたおびただしい量の闇神の血が、“邪闇石”や“邪闇巨石”なのです」

「この虹の指輪の石が、神の涙…そしてこの禍々しい石が神の血…?」
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