聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「深碧の湖には古人たちがつくった聖なる神殿があります。そこでのみ、聖具を修復、完成することができるのです」

歌うように言い、セラフィムはゆったりと景色を眺めながら歩いている。

その表情からは慈愛が溢れ、顔をのぞかせる動物たちや落ちる木の葉一枚一枚までも心底から愛しんでやまないといったようすだ。

本当に、この森は豊かで実りに満ち、美しい。

リュティアとカイもセラフィムと同じく紅葉する森の美しさに見とれながら歩いた。

「オジサン、さっきはセラフィムと、何話してたの」

列の後ろの方でパールがアクスを小突きながら尋ねた。

森の神殿を後にする時、セラフィムがアクスを見て“あなたは…”と何やら意味深な呟きを洩らしたのだ。そのあと二人は皆から少し離れて何か話しこんでいる様子だった。

「別に…」

アクスははぐらかした。

「お前こそ、さっきから妙に大人しいじゃないか。どうしたんだ」

「別に…」

パールもはぐらかした。

お互いに秘密の匂いがしたが、お互いにそれ以上つっこまなかった。

二人の間に落ちる微妙な空気をよそに、とびはねながら先頭を行くフューリィは明るい笑顔を振りまいている。

「セラフィム様! あんなに遠くまで飛んだよ!」

フューリィは道の小石を蹴飛ばして上機嫌だ。

「お、すごいね」と笑い、セラフィムも小石を蹴る。が、こめる力が優しすぎてほとんど飛ばない。それを見てフューリィがまた笑う。

フューリィは初めてセラフィムと森を歩けるのではしゃいでいた。その背中を見守るセラフィムの瞳はこの上もなく優しかった。
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